
個人事業主なんだけど、できるだけ税負担を抑えて手取りを増やしたい
何かよい方法はないのかな?
事業を行うにあたって、必ず取り組みたいのが節税です。
税負担は、収益が増えるほど重くなっていきます。
節税対策をしないまま事業を続けた結果、とんでもない額の税金を徴収された……なんてケースはできるかぎり避けたいですよね。
そこで本記事では、個人事業主が取り組むべき節税方法を解説します。
本記事でわかること
- 個人事業主が支払う税金の概要
- 税金の計算方法
- 個人事業主ができる6つの節税対策
しっかり節税対策を講じて、手取りを増やしていきましょう。
もくじ
個人事業主における節税の基本的な考え方

個人事業主が納める税額は、課税所得によって決まります。
課税所得が多くなれば税負担は重くなり、少なければそのぶん減少するのが原則です。
課税所得を減らすには、経費・所得控除・税額控除といった仕組みを活用するほかありません。
個人事業主ができる節税方法って、実はかなり限られているんですよね

節税を成功させるには、記事の後半で紹介するような制度を理解し、適切に取り入れるのが大切です。
個人事業主が支払う税金

具体的な節税方法を解説するまえに、個人事業主が納める税金の種類や計算方法を確認しておきましょう。
個人事業主が納める主な税金は、以下の4つです。
個人事業主が支払う税金の種類
- 所得税及び復興特別所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
どういった性質の税金なのか、順番に解説します。
所得税及び復興特別所得税
所得税とは、1月1日〜12月31日までの1年間で得た所得に対して課される税金のことです。
所得税額の計算方法は、以下の通りです。
所得税の計算式
- 収入-経費-所得控除=課税所得
- 課税所得×所得税率-税額控除=所得税
所得税率には、所得額に応じて税率が段階的に高くなる超過累進税率が採用されています。
超過累進税率は、以下の表のように課税所得に応じて7段階の税率が設けられています。
また所得税にくわえて2013年〜2037年に限り、東日本大震災の復興支援を目的とした復興特別所得税の納付も義務付けられました。
復興特別所得税は、先ほど計算した所得税額に2.1%を乗じることで算出されます。
復興特別所得税の計算式
基準所得税額×2.1%=復興特別所得税
所得税と復興特別所得税は、確定申告の際にそれぞれ税額を計算し、併せて申告しなければなりません。
住民税
住民税は、事業者が住んでいる地域の自治体に納める税金です。
教育や福祉、水道、ごみ処理といった行政サービスを支えるために使われており、1月1日時点で市町村に住所のある個人に対して課されます。
住民税には個人住民税と法人住民税の2種類があり、個人事業主は個人住民税を納めなければなりません。
個人住民税は、住民に一定の負担を求める均等割と、所得に応じて負担額が異なる所得割で構成されています。
住民税の内訳
- 均等割……すべての住民に等しく課される
- 所得割……前年の所得額に応じて課される
自治体によって金額が異なる場合もありますが、均等割は道府県民税(都民税)1,000円/年と市町村民税(特別区民税)3,000円/年の、計4,000円/年が基本です。
一方、所得割は道府県民税4%と市町村民税6%の計10%とされています。
それらを踏まえて、個人住民税の計算式を見てみましょう。
個人住民税の計算式
- 課税所得金額×税率(10%)-税額控除=所得割
- 所得割+均等割(4,000円)=個人住民税
上記の計算式に含まれる税額控除は、住宅ローンの支払いや特定団体への寄付といった特定の条件に応じて適用されます。
参照元:総務省 地方税制度 個人住民税
個人事業税
個人事業税は、地方税法などで定められた法定業種に対して課される税金です。
法定業種には全70種類あり、ほぼすべての事業が該当するといわれていますが以下の業種は対象外です。
法定業種に該当しない業種の一例
- 農業・林業
- スポーツ選手
- 画家・漫画家
- 通訳・翻訳家
- プログラマー・エンジニア(IT関連)
上記の業種でも、契約形態や事業内容によっては課税対象になるケースもあります

個人事業税を算出する際は、次の計算式を使用します。
個人事業税の計算式
(前年の事業所得-各種控除)×業種に応じた税率=個人事業税
計算に用いる税率は、業種ごとに3%・4%・5%のいずれかが定められています。
詳しくは東京都主税局のホームページをご確認ください。
消費税
消費税は、商品・製品の取引やサービスの提供に対して課される税金です。
消費者が負担し事業者が納税する、間接税の一つです。
税金は、担税者が国や地方自治体に直接納める直接税と、担税者が支払った税金を納税義務者が代わりに納める間接税に大別されます
間接税には、消費税のほか、酒税・たばこ税・印紙税などが該当します

消費税の納税義務は、原則として基準期間(前々年、または前年の1月1日〜6月30日までの期間)に課税売上高が1,000万円を超える場合に発生します。
一方、課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者となり、納税義務が免除されます。
例外的に適格請求書(インボイス)発行事業者は、課税売上高1,000万円以下でも消費税の納税義務が生じるので注意してください。
消費税の課税事業者は、下記の計算方法のいずれかを選び、自身で納税額を計算しなければなりません。
消費税の計算式
- 本則課税:受け取った消費税-支払った消費税=納税額
- 簡易課税:受け取った消費税×みなし仕入率=納税額
- 2割特例:受け取った消費税×20%=納税額
本則課税は、消費税の納税額を計算する基本的な方法です。
取引ごとに消費税を算出しなければならないため、計算が煩雑化する傾向にあります。
しかし、預かった消費税より支払った消費税が多い場合、還付を受けられます。
簡易課税は、消費税の算出に伴う作業負担を軽減するために設けられた計算方法です。
受け取った消費税に対して、業種ごとのみなし仕入率を乗じるだけで納税額を算出できます。
また、本則課税より簡易課税で計算したほうが納税額を押さえられるケースもあります。
ただし、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者しか利用できません。
2割特例は、免税事業者から適格請求書(インボイス)発行事業者になり、消費税を納める義務が発生した方を対象とした制度です。
インボイス制度の導入により生じた事業者の負担を緩和する目的で、設置されました。
2割特例の対象者であれば、売上にかかる消費税の2割だけを納めればよいため、計算が簡易なうえ節税効果も得られます。
2023年10月1日〜2026年9月30日までの課税期間を対象とする時限的な措置ですが、対象に含まれるならぜひとも利用したい制度です。
個人事業主ができる節税6選

ここからは、個人事業主ができる節税方法を6つ紹介します。
個人事業主ができる節税方法
- 青色申告特別控除
- 事業専従者への給与支払い
- 家事按分
- 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)
- 小規模企業共済
- 法人化
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
①青色申告特別控除
個人事業主が節税するにあたって、まず活用すべきは青色申告特別控除です。
申告者の条件に応じて10万円、55万円、65万円のいずれかの所得控除を受けられます。
青色申告特別控除を受けることで課税所得が減り、所得税や住民税の負担が軽減されます

事業者は、確定申告をする際に青色申告か白色申告のいずれかを選択します。
青色申告特別控除を受けるには、このとき青色申告を選ばなければなりません。
青色申告は記帳が複雑なうえ提出書類も多く、白色申告より手間はかかりますが、以下のような恩恵を受けられます。
青色申告のメリット
- 青色申告特別控除を受けられる
- 青色事業専従者給与を必要経費にできる
- 純損失の繰越控除と繰戻還付を受けられる
- 減価償却の特例を受けられる
- 貸倒引当金を計上できる
- 少額減価償却資産の特例を使える
なお、青色申告特別控除を受けるには、次の条件を満たす必要があります。
青色申告特別控除の適用条件
- 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
- これらの所得にかかる取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
- 複式簿記の記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに当該申告書を提出すること
- その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること
- その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書などの提出を、確定申告書の提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して行うこと
55万円の特別控除を受けるには、①②③の条件をすべて満たさなければなりません。
そのうえで、④か⑤の要件をクリアすれば65万円の控除を受けられます。
55万円控除・65万円控除の条件を満たせなかった青色申告者は、10万円の控除しか受けられません。
②事業専従者への給与支払い
確定申告に際して青色申告を選択していれば、事業を手伝っている家族(配偶者・親・子ども)への給与を経費に計上できます。
この制度を青色事業専従者給与といい、家族への給与を経費計上することで利益を減らし、節税効果を得られます。
青色事業専従者給与の適用を受ける条件は、以下の通りです。
青色事業専従者給与の適用条件
- 青色事業専従者に支払われた給与であること
- 青色事業専従者給与に関する届出書を納税地の所轄税務署に提出していること
- 届出書に記載されている方法により支払われ、かつ、その記載されている金額の範囲内で支払われたものであること
- 青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること
青色事業専従者と認められるにも要件がありますので、併せて確認しておきましょう。
青色事業専従者の要件
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること
- その年を通じて6か月を超える期間(一定の場合は事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること
ご家族と一緒に事業を営んでいる方であれば、本制度の適用により給与の全額を経費計上しつつ所得を分散させ、税負担の軽減を図れます。
③家事按分
自宅の一室で仕事をしている、あるいは自宅を店舗として使っている事業者は、家賃や水光熱費の一部を経費にできます。
この制度を、家事按分(かじあんぶん)といいます。
家事按分は、生活用と事業用が混在している費用を一定のルールに基づいて分割し、事業に用いたぶんを経費に計上する方法です。
主として、以下の費用に適用されます。
ポイント
- 家賃
- 水光熱費
- 通信費
- ガソリン代
家賃であれば事業に用いている面積、水道光熱費や通信費なら使用時間を基準に、経費に計上する金額を割り出します。
とはいえ「家賃は〇〇%まで経費にできる」といった具合に、明確な数値が定められているわけではありません。
税務署に説明を求められた際、その割合にした理由を説明できるかが、家事按分のポイントになります。
④中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)
節税対策の一環として、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)に加入するのも一案です。
中小企業倒産防止共済とは、取引先の企業が倒産した際に一定の借入が可能となる共済制度です。
月額5,000円〜20万円までの範囲で自由に掛金を設定でき、個人事業主であればその全額を必要経費に算入できます。
中小企業倒産防止共済は、中小企業の連鎖倒産や経営難の長期化を防ぐための制度であり、次のようなメリットが得られます。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)のメリット
- 無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借り入れられる
- 掛金は必要経費に算入できる(個人事業主に限る、法人は損金算入)
- 40か月以上継続により、掛金全額と同額の解約手当金を受け取れる
掛金を必要経費に算入して利益を減らしつつ、解約手当金を受け取れるのが中小企業倒産防止共済の強みです。
ただし、受け取った解約手当金は課税対象となる点に注意してください。
節税目的で加入するなら、赤字や必要経費の支出が多い年に解約するといった配慮が必要です。
⑤小規模企業共済
退職金制度のない個人事業主にとって、将来に備えつつ節税できる小規模企業共済は、非常に有益な制度です。
小規模企業共済は、中小企業の経営者や個人事業主のための退職金積立制度です。
掛金に応じて給付金を受け取れるだけでなく、掛金全額を課税所得から控除できます。
なお、加入するには以下の条件を満たさなければなりません。
小規模企業共済の加入条件
- 常時使用する従業員の数が要件を満たしている
※従業員数の要件は下の画像参照 - 税務署に開業届を届け出て、事業所得を得ていることにより確定申告をしている
- 会社とのあいだで雇用関係が生じていない(給与所得を得ていない)
- 固定給に近い報酬を得ておらず完全歩合制である
- 社会通念上、事業者と認められる方である(事務所を有している、常時事業に従事している等)
引用元:共済サポートnavi
小規模企業共済の掛金は、月額1,000円〜70,000円まで、500円単位で自由に設定できます。
また、加入後も任意で増額・減額できるため、収入の安定しない個人事業主も取り入れやすい制度といえます。
ただし、加入してから20年未満で解約した場合、受け取れる共済金が掛金を下回るので注意してください。
小規模企業共済は、20年以上加入しつづけるのが前提の制度なんです

⑥法人化
節税のために法人化(法人成り)する事業者は、少なくありません。
個人事業を法人化すると課税される税金の種類や経費の範囲が変わり、条件によっては節税効果を得られます。
個人事業を法人化するタイミングは、課税所得800万円を超えたときがよいといわれています。
なぜなら、課税所得800万円に達したあたりで個人事業主にかかる所得税額と、法人にかかる法人税額が同程度になるからです。
課税所得が1,000万……2,000万……と増えるほど法人税のほうが割安になるわけです。
ただし、節税だけを目的に法人成りするのは時期尚早かもしれません。
法人は雇用している従業員の人数にかかわらず、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必須です。
一般的に社会保険は、個人事業主が加入している国民健康保険や国民年金より割高になってしまいます。
法人化して税負担が減っても、保険料の負担が増えてしまう可能性があるんです……

なお、社会保険料の負担を減らすなら、マイクロ法人の設立がおすすめです。
以下の記事で解説しておりますので、気になる方はぜひこちらもご覧ください。
まとめ

今回は、個人事業主ができる節税方法を解説しました。
今回の記事の内容
- 個人事業主が支払う税金
- 個人事業主における節税の基本的な考え方
- 個人事業主ができる節税6選
個人事業主が支払う税金は、課税所得に応じて変わります。
そのため、経費を計上し、所得控除・税額控除が適応されれば、そのぶん税負担は減っていきます。
青色申告特別控除や小規模企業共済など、利用できる制度を活用して手取りを増やし、豊かな生活を手に入れましょう。